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コンピューター支援技術を用いた人工膝関節置換術

薬師寺 俊剛 副院長・整形外科部長JCHO人吉医療センター

JCHO人吉医療センター 副院長・整形外科部長
薬師寺 俊剛(やくしじ としたけ)

厚生労働省によると、1990年には23万8千人であった変形性膝関節症の患者さんは、2014年には5倍以上の125万人に増えているそうで、今後も多くの方に膝痛が訪れる可能性があると考えられます。

この変形性膝関節症は、症状が悪化すると「人工膝関節置換術」という手術で治療することが選択肢の一つになります。人工膝関節置換術は、実は国内では毎年8万件と数多く実施される手術(矢野経済研究所データ)で、米国ではその10倍も実施されていると言われている実績ある手術です。それだけ数多く行われている人工膝関節置換術なので、既にその成績は安定していますが、近年では、より安全にそして確実にその手術を行う為に、コンピューター支援技術を用いることが増えてきました。

写真1 人工膝関節(インプラント)

コンピューター支援技術には、患者さん個々に合わせた人工膝関節(インプラント)(写真1)を設置する為に必要な器具を事前に製作してそれを用いるものや、今や車の運転では欠かすことの出来なくなってきました「ナビゲーション」を手術に用いるもの(写真2)等があります。人工膝関節置換術で用いるナビゲーションは、車でいうところの目的地である「インプラントの設置位置と設置角度」を示してくれます。手術を行う医師は、手術を行う前に、どのような位置に、どのような角度でインプラントを設置するか、綿密に計画を立て手術に臨みます。そしてその手術は、計画に沿って進められ、「目的地」に向かうことになります。

ナビゲーションを用いない人工膝関節置換術では、熟練した医師の感覚でその「目的地」に向かって手術が進められていきます。勿論、多くの手術を経験してきた医師であれば、その「目的地」に確実に辿り着くことが出来ますが、ナビゲーションを用いるとさらにその確実性が上がり、より安全な手術を行うことが可能となります。ナビゲーションは、インプラントを設置する為の器具の角度や方向を、画面上に具体的な数値で正確に示してくれます(写真3)。

写真2 人工膝関節置換術で使用されるナビゲーション

医師は、その画面で角度や方向を確認しながら、医師自身の感覚だけではなく、客観的な数値をもって手術を進めることが出来るので、より安全であると言うことが出来ると考えられています。

人工膝関節置換術は、インプラントの設置位置と設置角度が非常に重要で、計画に外れた設置をしてしまうと、膝の半月板と呼ばれるクッション材、人工関節では「ポリエチレン」が早期にすり減り、人工膝関節を交換するまでの期間が、計画通りに設置をされたものと比較して早くなってしまう可能性があります。つまり、人工膝関節を長持ちさせる為には、医師の計画通りに設置することが最も重要で、ナビゲーションはそれを助けてくれる頼もしい存在なのです。

写真3 ナビゲーション画面

すでに長きにわたり数多く実施され、確立された手術である「人工膝関節置換術」を患者さんにより安心して手術を受けて頂く為に、現在、国内でもこのナビゲーションが多くの病院で導入されています。

今後、ナビゲーションを含めたコンピューター支援技術は、人工関節分野においても発展していくことが予測されますが、こういった技術によって人工関節がより普及し、一人でも多くの痛みを抱える患者さんを治療していきたいと考えています。
そして、関節の痛みを解消する為には我慢せず、まずは整形外科を受診しましょう。