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第11回 『ひとりで悩まないで ~患者会を活用しよう~』

今回は、NPO法人 変形性股関節症の会「のぞみ会」を取材しました。5月2日に東京本部事務所での「のぞみ亭」、そして6月20日の「講演会」に参加させていただき、その活動を取材してきました。

  1. のぞみ会とは?
  2. のぞみ亭
  3. 講演会
  4. まとめ

1.のぞみ会とは?

NPO法人のぞみ会は、変形性股関節症を持つ人の会として1986年6月に活動を開始し、現在は、全国に16支部を持ち、広く股関節疾患を持つ人の会として会員数約6,400名の団体となっています。最近ではインターネットの普及によりさまざまな情報を入手しやすくなりましたが、それ以前は疾患や治療の情報を集めることが困難でした。そのような時代から、のぞみ会では股関節疾患を専門とする医師の協力を得ながら、講演会や機関紙による情報提供、会員同士の情報交換など、積極的な活動を継続しつつ現在に至っています。

2.のぞみ亭

wadai011-1「のぞみ亭」は会の活動の一つで、股関節の悩みを持つ人々の情報交換や意見交換、また、運営委員への相談など自由に話すことのできる憩いの場です。会員で有る無しに関わらず(ただし、非会員は事前に電話してほしいとのこと。)、気軽に利用できる開放的なサロンです。5月2日(土)は運営委員の方を含めて約20名が、東京の高田馬場にあるのぞみ会本部事務所に集まりました。

通常はAM11時~PM15時に開かれ、昼食の時間を挟んで自己紹介や情報交換が行われます。お昼時間は、持参したお弁当を食べたり外に食べに行ったりと自由ですが、お昼ご飯の間も、参加者同士おしゃべりをしながらという人が多かったように思います。

「のぞみ亭」では疾患や治療に関することはもちろん、日頃抱えているさまざまな悩みや問題を話すことで、それを共感し、問題解決に向けた前向きな意見や情報を得ることができます。
例えば、「杖をつくことに抵抗がある」、「自分が他人に迷惑をかけているような気分になる」、「健常者の中に入ると自分が情けない」、けれども「気持ちの持って行き場がない」という方がいましたが、皆、少なからず同じような悩みを抱えていることがわかり、「他の参加者の話を聞いてほっとする」という意見が多く聞かれました。
股関節の機能に関することでは、足の爪きりの方法について、「股関節だけでなく、足首の関節や腰を曲げるようにするとできる」と運営委員からアドバイスがありました。歩き方についても、「ゆっくりきれいに歩くように意識すると良い」ことや、水泳については「体が冷えるので合わない人もいる」こと、また、「上半身をおろそかにしない」こと、特に「脇を伸ばすことは股関節を伸ばすことになる」など、具体的なアドバイスがありました。

wadai011-2そして、「人工関節にするか自骨(骨切り)にするか悩む」、「手術を勧める医師と、保存療法を勧める医師がいて悩む」、「手術はしたくない」、「資料や情報があればあるだけ悩んでしまう」などの手術に関する話題も出ました。これには、既に手術を受けられた方の感想や意見を聞いたり、また、都合さえつけば、入院中の会員に面会して話を聞けるように運営委員が調整することもあるそうです。

このほか、病院の医師との相性やセカンドオピニオンなどに関する話題もあり、特定の病院や医師の名前が挙がって盛り上がる場面もありました。このように色々な情報を得ることができるのぞみ亭ですが、運営委員からは、「この会で出る話はあくまでも参加者の主観によるものなので、それがすべてと判断しないように」という注意があり、参加者に客観的で冷静な判断を促すことも忘れていませんでした。

3.講演会

wadai011-3医療情報などの講演会は本部の活動として年に2回行われ、疾患や治療に関する医療情報や手術の体験談など、毎回関心の高いテーマを設定して情報を提供しています。そのうち1回は総会時に開催され、今年6月20日(土)には東京都江戸川区で第7回総会および体験発表会が開催されました。
総会は会員のみの参加となりますが、講演会は会員でない人も有料(今回は1,000円)で参加することができます。この日はおよそ290名が集まりました。
今回のテーマは「4名の体験発表と医師のアドバイス」ということで、保存療法、自骨手術(骨切り術)、人工股関節置換術、人工股関節再置換術を受けた人が体験談を話し、アドバイザーとして順天堂大学附属病院整形外科の前澤克彦准教授が助言や、会場からの質問に対する回答を行いました。ここでは手術を受けたかたのお話と先生からのアドバイスをご紹介します。
RAO(寛骨臼回転骨切り術)を受けたかたは、医師から「人工関節までのつなぎ」と言われて悩まれたそうですが、人工関節は脱臼や再置換を考えると怖いイメージがあったため、RAOに決めたということです。タイミングよく同じRAOの手術を受けた患者さんに面会することができましたが、実際は直前まで手術を迷ったと言います。その時「のぞみ亭」でセカンドオピニオンを勧められ、そのオピニオンの医師に「僕も同じ診断だよ。安心して受けると良いよ。」と言われて安心して手術を受けることができたということでした。そして、現在は「痛みはあるけれども、これだけ歩けるようになったので、手術を受けて良かったと思う。」ということでした。
RAOについて前澤先生は、「術後の安静期間やリハビリ期間が長いこともあり、以前に比べたら手術件数は減ってきていますが、タイミングがよければとてもよい手術だと思います。」と言われました。
次に、両側同時にMIS(低侵襲手術)人工股関節置換術を受け、後悔をしているというかたの話がありました。先ず、医師からは「軟骨はすり減っているけれど、手術はもっと後でいいけどね」と言われたそうですが、手術するほど悪いのだと思い込んでしまったそうです。さらに、のぞみ会では人工関節手術について悪い話はほとんど聞かず、インターネットで個人のブログを見ても「今は良かった」という話しか載っていなかったため、「手術をすれば明るい未来がやってくる」と思い込んでしまったそうです。今にして思えば、手術で後悔したり悩んだりしている人もいたのではないか、それを聞いていたらもっと覚悟を持って手術に臨んだのではないか、色んな困難ももうちょっと楽に乗り越えられたのではないか、といろいろ考え悩まれたそうです。
このかたは、「術後の痛みがひどく辛かった」こと、手術を受けた病院が「両側の手術をする病院なのに、体の向きを変えるなどの看護ケアが整っていなかった」こと、「2週間目に骨折してしまった」ことなど、辛い体験をされたそうです。現在は、殆ど痛みはなく、骨折の影響で脚長差はありますが、靴の中敷を使用してほぼ普通に歩けているそうです。「本来ならこれでハッピーと思っても良いのですが、何か心の傷のようなものをいまだ引きずっていると言う状態です。ですから家庭の事情などで特別急いでいないのであれば、あえて両側同時に手術をする必要はないのでは、というのが私の回答です。」と締めくくられました。
MIS手術について前澤先生は、「MISは傷の大きさではなくて、筋肉をなるべく切らずに侵襲をしないで手術することです。筋肉や骨の質もあるので入院期間は人により変わることもあります。」と説明されました。

最後は1回目の人工関節置換術から21年目に、再置換術を受けられたかたのお話でした。最初の手術から16年経った時に、ステムを固定しているセメントにひびが入り、医師から「そろそろ取り替え時期ではないか」と言われたそうですが、自覚症状もなかったため、セカンドオピニオンを受け、その時は手術を見送ったそうです。そして21年目、大腿部の痛みが出てきて跛行がかなりひどくなり、のぞみ会の先輩会員から「歩き方が随分悪くなったわね。手術の時期じゃないの?」と言われ、「自分の事は自分が一番よくわかっているつもりでも、いざとなると自分が見えなくなるのだな」とその時思ったそうです。
再置換の手術をして一番良かった事は、「大腿部の痛みがとれた」ことと、両足の長さがそろって「脚長差がなくなり、歩行がとても楽になった」こととのことでした。
前澤先生は、「人工関節を入れた瞬間から、次の再置換の可能性が出てきます。手術が終わりでなく新たな始まりになってしまう。そのあたりは、年齢的に若いうちに受けられる方は避けて通れません。しかし、再置換術では元の良い状態に戻るので、受けざるを得ないという決断も必要となるでしょう。」とコメントされました。

4.まとめ

このように、さまざまな治療を受けられた人の体験談をじかに聞く機会はそうそうあるものではありません。また、のぞみ亭のように同じ悩みを持つかたがたが集まり、情報を交換する場もなかなかありません。もしも股関節のことで一人悩んでいるかたがいるとしたら、問題解決の一手段として、このような会に入って一緒に勉強するのが良いのではないでしょうか。
今回は「のぞみ会」の活動のごく一部をご紹介しましたが、このほかにも多くの活動を行っています(表1)。このように全国規模で積極的な活動を行うための費用は、会費によってまかなわれています。患者会は会員同士お互いの協力があって初めて成り立つということを理解しました。

のぞみ会の主な活動内容

  • 機関誌「のぞみ」発行(年4回)
  • 総会(年1回)、医療等講演会(年2回)、その他、支部会での講演会・交流会
  • 専門医による電話医療相談(年7回) 一人20分、会員は無料。
  • 股関節症に関する相談:月~金(土・日・祝祭日休み)11時~15時
  • 医療・リハビリその他生活上の問題等についての相談と情報提供。
  • 原則的に医師や病院の紹介はしていません。
  • 不定期の刊行物発行
  • ホームページ・投稿欄の解答
  • のぞみ亭(年6回) 奇数月の第1土曜日 11時~15時
  • 紳士談話室(年4回)偶数月の第一土曜日 11時~15時

詳しくはのぞみ会ホームページをご覧下さい。
http://www.npo-nozomikai.jp/

この情報サイトの内容は、整形外科専門医の監修を受けておりますが、患者さんの状態は個人により異なります。
詳しくは、医療機関で受診して、主治医にご相談下さい。