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第8回 『ナビゲーションを使用した人工股関節置換術と術後の生活動作』

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国立病院機構大阪
医療センター
三木 秀宣先生

ひとくちに、ナビゲーションと言ってもその機能や使用法は機種や使用部位によって異なる点もあります。前回、ナビゲーションを使用した人工膝関節置換術についてご紹介しましたが、今回はナビゲーションを使用した人工股関節置換術について、年間約150症例の人工股関節置換術を行っている国立病院機構大阪医療センターの整形外科股関節クリニック 三木 秀宣先生にお話しを伺いました。
また、術後の生活動作についても動画を交えて解説頂きました。

 

 

  1. 人工股関節におけるナビゲーション使用のメリット・デメリットについて教えてください。
  2. 正確に設置されて可動域が大きくなると、手術後の実生活上にどのようなメリットがありますか?
  3. 術前術後の動作
  4. インタビューを終えて

1.人工股関節におけるナビゲーション使用のメリット・デメリットについて教えてください。

一番のメリットは、正確に手術前に計画した通りに人工関節を設置できることだと思います。人工関節を正確な位置に設置することは、手術後の耐久性や可動域(関節を動かせる角度)に影響することですので、非常に重要なのです。

まず、手術前に患者さんのCT画像を使ってコンピューター上で人工関節を入れた後に可動域がどのくらいになるかをシミュレーションすることができるという点が大きなメリットとして挙げられます。どのサイズがそれぞれの患者さんにとって一番合うサイズなのか、ということもレントゲン写真などの平面で測るより、立体的に正確に測ることができます。さらに、手術前に左右の脚長差がある場合、どのように設置すればそろえられるかなど、綿密に計画することができます。

 

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スライド:三木先生提供

さらに、手術中にはナビゲーションツールとして、手術前にシミュレーションして計画した通りに手術ができるように画面で導いてくれます。どの方向に、どのくらい入れれば最適な位置に入れられるかを教えてくれるのです。最近は特に、最小侵襲手術といって、皮膚切開を小さくしたり、切る筋肉を少なくする傾向にありますので、手術中に目で確認できる範囲が狭くなっているため、画面で誘導してくれるナビゲーションツールの存在は益々重要度が増しています。

逆にデメリットとしては、通常の手術に比べて手順が増えるので、15~30分程度手術の時間が長くなるという点が挙げられますが、これによって出血量が増えるなどといったことはありません。

また、骨盤に器具を固定するための5~7ミリ程度の皮膚切開が2~3箇所加わります。これは将来的に新しいものが開発され必要なくなって行きますが、現状ではデメリットとして挙げられます。

2.正確に設置されて可動域が大きくなると、手術後の実生活上にどのようなメリットがありますか?

wadai008-3人工股関節置換術後、可動域が大きいことは脱臼の危険性を少なくすることができます。脱臼というのは、動作時に設置した骨盤側のカップと大腿骨側のステムがぶつかったり、骨とぶつかったり(右図)することで起きる訳ですが、手術前にそのようなことが起こらないような位置に入れられるようシミュレーションして、手術計画を立てることで危険性を少なくできるのです。

実際、当院ではナビゲーションを導入して1年半になりますが、ナビゲーション導入前には標準よりは低い発生率ではあるものの1~2%に脱臼が起こっていましたが、導入後の症例ではまったく起こっておりません。

3.術前術後の動作

手術後すぐからのベッド上での運動から始め、歩行練習、階段昇降練習へと徐々に進めていきます。このビデオの患者さんは若いから手術後の快復が早いのではないか、と思われるかもしれませんが、当院においては高齢の患者さんもほぼ同じような期間で、活動性が向上して行っています。患者さんの筋力の回復状態によりますが、通常術後2~3ヶ月で、正座、座礼、しゃがみ、和式トイレなどほとんどの動作は基本的にOKとしています。「手術後は90度以上股関節を曲げないように」と言った、画一的な動作制限は行っていません。

4.インタビューを終えて

こちらの施設でナビゲーションを使用される前から、大阪大学でナビゲーションの開発や臨床使用・研究に長く携わっていた三木先生のご説明は明快です。実際に術前計画を立体的にCT画像を使って行う方法とレントゲン写真を使って平面的に行う場合の違いや、実際に人工股関節を入れた患者さんの色んな動作(正座や座礼、しゃがみこみ、階段の上り下りなど)をコンピューター技術を駆使した研究で解析されたご経験から、ナビゲーション手術への信頼には揺るぎがありませんでした。

協力:国立病院機構大阪医療センター 整形外科股関節クリニック

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