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第3回 『もっと知りたい関節の話』

日ごろからよく見ていただいているユーザーの皆さんからの要望の多かった.もっと詳しい病気の話、最近注目の治療について特集していきます。
第一回は、変形性股関節症について同愛記念病院人工関節センターの長谷川 清一郎先生に伺います。
同愛記念病院では、2007年10月より、人工関節センターを開設し、整形外科専門医が治療を行います。
これまでに行われた人工股関節手術は1000例を超えており、来院される患者さんの中でも、変形性股関節症の患者さんが一番多いそうです。

  1. 股関節の痛み
  2. 変形性関節症の原因
  3. 変形性股関節症の進行
  4. 変形成股関節症の手術療法
  5. 人工関節置換術の効果
  6. 合併症
  7. 変形性股関節症の最近のトピックス
  8. 受診のきっかけのご参考に

1.股関節の痛み

股関節のセルフチェック

はじめは、長い時間立っていた後や長い距離を歩いた後、更に運動した後などに、腰、大腿、膝などに感じる重苦しさ・鈍痛や疲労感、さらに、股関節の不安定感などを感じます。
この時期では、すぐに症状はなくなってしまいます。はじめは、いろいろな部分に症状がでてきますが、次第に股関節(足の付け根) にハッキリと痛みを感じるようになり、痛みの生じる間隔も短くなり、安静時にも痛みが生じたりします。
急に悪くなるのではなく、10年から15年ぐらいの期間で徐々に進行します。まれに、数ヶ月で急激に悪化することもあります(60代後半から70代の年齢の女性に多くみられます)。
主な症状は、痛みと動きが悪くなることです。そのために、重いものを持てない、長く歩けない、階段の昇り降りが困難、靴下がはきづらい、足の爪が切りづらいなど、日常生活上たいへん不便になります。

2.変形性関節症の原因

原因により、一次性股関節症と、二次性股関節症に分類されます。

○一次性股関節症:欧米に多く、原因がわからないものも多いのですが、関節軟骨がすり減り、引き続き骨が変形してゆきます。これは関節軟骨の細胞が老化していくことが主な原因と考えられています。

○二次性股関節症:何らかの病気やケガに起因するものです。日本でとても多く(8~9割)、先天性股関節脱臼と臼蓋形成不全によるものが大多数で、男女比1:7で、女性に多いのが特徴です。関節軟骨などがすり減り、骨のずれを生じたり、骨の変形や増殖を生じたりします。そのほかに、ペルテス病、特発性大腿骨頭壊死症、大腿骨頭すべり症、化膿性股関節炎、股関節骨折などでも起こります。

臼蓋形成不全は、臼蓋(骨盤の骨)の発育が不良で小さく、骨頭を十分におおうことができない状態をいいます。体重の数倍の力がかかる関節ですから、骨頭をうける臼蓋の面積が狭いと、その狭い接触面に集中的に力が加わることになります。その結果、軟骨は早くすり切れてしまい、変形性股関節症へと進行してゆきます。
しかし、中学高校時代には症状がないことが多く、運動能力が高い方も多いので、なかなか発見されず、大人になるまで股関節の異常があることに気づかない方も多くいらっしゃいます。女性に多いため、妊娠・出産などをきっかけに症状が悪化するケースも少なくありません。

*先天性股関節脱臼
生まれつき、大腿骨が骨盤の中の寛骨臼からはずれている病気です。先天性とついていますが、分娩時の状態や、新生児から乳児の時のおむつのあて方などの生育環境による後天性のものが多く、赤ちゃんのゆるい股関節に、無理な力が加わることがきっかけとなって起こると考えられています。女の子に多い病気です。
最近はおむつのあて方や抱き方の指導が行われており、発生率が減少しています。

*ペルテス病
原因不明の血行障害により大腿骨骨頭が壊死におちいる病気で,4歳から12歳前後(特に5歳から9歳の時期)の男児に多いのが特徴です。壊死した骨はやがて吸収され新たな骨が形成されますが、この過程で骨頭の変形が残ると将来、変形性股関節症の原因となります。
重要な症状として、ほとんどの子供は膝の痛みを訴えます。股関節の痛みはまず訴えません。子供が膝を痛がる時には、股関節が原因のこともあると疑ってみることが大事です。

*大腿骨頭すべり症
10歳から14歳の男児に多いのが特徴です。大腿骨頭が後方にすべることにより、痛みや、股関節の動きの制限、歩行障害が起こります。原因は明らかではありませんが、大腿骨頭の成長軟骨の部分への外傷や内分泌異常との関連があるといわれています。
この病気でも、まず膝の痛みを訴える子供が多いです。

*化膿性股関節炎
ブドウ球菌などの細菌感染が原因で、関節内が化膿する病気です。
この病気は化膿による炎症のため、あまりにこの状態が長びくと関節の近くにある骨まで破壊されてしまう場合があります。
最近はあまり見かけませんが、新生児から乳児の時期に起こると、診断が遅れて、軟骨成分がほとんどの大腿骨頭を傷める危険性があります。

3.変形性股関節症の進行

変形性股関節症は、X線による分類で、前股関節症→初期→進行期→末期と進行し、それぞれの病期に応じた症状がでます。

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1.前股関節症

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2.初期

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3.進行期

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4.末期

 

 

 

 

 

 

変形性股関節症の進行

①前股関節症:レントゲンに変化が見られない時期
②初期:骨の硬化が見られ、関節の隙間がわずかに狭くなる時期
③進行期:骨のう胞や、骨棘(こつきょく)が見られ、関節の隙間がさらに狭くなる時期
④末期:関節の隙間が消失する時期

X線と関節の痛みとは必ずしも一致していません。X線では比較的軽くても痛みが強い場合があります。逆にX線の変化がひどくても痛みはほとんどない場合があります。
発症すると、加齢とともに徐々に悪化し、いったん変形した股関節を完全に発症以前の状態に戻すことはできません。
手術などを希望されない時は、病状の悪化を出来る限り遅らせることが治療の目的になります。
ふだんから股関節をいたわる生活(ただし、じっとしているだけではダメで、筋力強化のための正しい体操や運動などはすごく大切です!)を心がけることで、痛みを軽減させ、生活をしやすくしたり、病気の進行を遅らせることができます。

4.変形成股関節症の手術療法

前股関節症から、初期、進行期、末期までの、それぞれの病期に応じた手術法があります。

○前股関節症から初期:寛骨臼回転骨切り術をお勧めすることが多いです。関節の変形が少ない時期であれば、手術をした関節もかなり長持ちする可能性が大きいです。

○50才未満の進行期から末期:進行した股関節症の方は、大腿骨外反骨切り術やキアリ骨盤骨切り術などの自分の関節を残して再建する手術(関節温存手術)をお勧めすることもあります。股関節の痛みはかなり軽くなりますが、悪化している股関節の動きの改善は少ないことが多いです。このため、満足度が低い場合もあります。

○50才以上の進行期から末期:関節温存手術をお勧めすることもありますが、人工関節置換術をお勧めすることが多くなってきました。60才以上では、ほぼ人工関節置換術をお勧めします。

5.人工関節置換術の効果

痛みをかなり取りのぞくことができ、制限されていた関節の活動性(動き)をとり戻せることがあります。また、他の関節への負担を軽くし、活動範囲が広がることで、下肢の筋力がついてくることなどもあります。これらより、日常生活動作がかなり改善されます。

6.合併症

○人工関節置換術
1)人工関節のゆるみ、破損、摩耗(すり減る)により15~20年経過した後に、再度入れ換えの手術が必要となることや、
2)人工関節の脱臼(関節がはずれてしまうこと)を生じる可能性などがあります。これらについては、日常の生活動作などに注意することでかなり起きにくくすることができます。
この様に、人工関節置換術には長所も短所もありますが、最近では、より快適なQOL(クオリティ オブ ライフ=生活の質)を得るための一手段として人工関節を選ばれる患者さんもいらっしゃいます。

○股関節の手術全般
感染(化膿すること)や輸血による問題、さらに、深部静脈血栓症や肺塞栓症(よくエコノミ-クラス症候群といわれることがあります)などもあります。
これらを完全になくすことは難しいですが、十分な経験のある施設(医師だけでなく、周囲のスタッフや設備も含めて)であれば、予防や早期における診断と対応がより適切に行える可能性は高いと思います。
手術を行うかどうかや、行う場合の手術法の選択などは、関節の状態(痛みや動きの状態)や年齢、生活様式などをふまえて決めてゆきますが、最終的に決めるのは患者さん自身です。
私たちは、医学的な立場からのアドバイスを行いますが、患者さん自身の希望になるべく沿える方向で努力しております。
変形性股関節症でお悩みの患者さんは、気軽に股関節専門医にご相談下さい。可能な限り、ご相談に対応することができると思います。

7.変形性股関節症の最近のトピックス

日本人女性では臼蓋形成不全に由来する二次性の変形性股関節症が最も多くみられます。
臼蓋形成不全は、臼蓋の発育不良のため臼蓋の面積が狭く、骨頭を十分におおうことができない状態です。その狭い接触面に集中的に力が加わる結果、変形性股関節症へと進行してゆきます。
また、当然ですが、股関節は立体的な3次元の構造をしており、実は、臼蓋の形成不全は外側方向と前方(お腹の方向)のどちらにもあるのです。
さらに、大腿骨の一番上の部分(骨頭から大腿骨頸部(けいぶ)の付近)も前方(お腹の方向)を向いています(これを前捻(ぜんねん)といいます)が、臼蓋形成不全のある方では、前捻が強い傾向があります。前捻が減った方が、前向きの骨頭が臼蓋の中にしっかり収まり、安定します。
大腿を内側に捻ると、見かけ上、前捻が減ってきます。このため、膝が内側を向いた内旋位(ないせんい)で歩行しがちです。これが、長い時間立っていた後や長い距離を歩いた後などに、骨盤前方から大腿にかけての筋肉などに感じる重苦しさや疲労感、さらに、股関節の不安定感などの原因の一つと考えられています。
一方、前方の臼蓋形成不全を補うため、骨盤が前方に傾斜しがちとなります。さらに、腰の背骨腰椎(といいます)の前方への彎曲(わんきょく)が強くなる傾向もあります。
このように、股関節だけでなく、腰椎にも膝にも影響が出やすいため、ストレッチや筋力強化の体操などは、是非日頃から習慣づけていただくと良いと思います。

8.受診のきっかけのご参考に

最後に、こういう症状、痛みなどを感じたら一度専門医を受診したほうがよいという目安を伺いました。

○先天性股関節脱臼などの治療を受けたことがある方:子供の時の主治医に治ったと言われていて症状がなくても、20歳前後で一度専門医を受診されることをお勧めします。臼蓋形成不全を認める方が非常に多いです。

○先天性股関節脱臼などの治療歴がない方:臼蓋形成不全があってもほとんど自覚症状はなく、中学高校時代にはむしろ運動能力が高い方も多いです。このため、なかなか発見されず、妊娠・出産などをきっかけに症状が悪化するケースも少なくありません。

○20代から30代の女性:長い時間立っていた後や長い距離を歩いた後、更に運動した後などに、腰、大腿、膝などに感じる重苦しさ・鈍痛や疲労感、さらに、股関節の不安定感などを感じます。この時期では、すぐに症状はなくなってしまいますが、1年に何回かこのような症状を認めた時には、一度専門医を受診されることをお勧めします。

○40代以降の方:次第に股関節に痛みを感じるようになり、動きも悪くなってきます。そのために、重いものを持てない、長く歩けない、階段の昇り降りが困難、靴下がはきづらい、足の爪が切りづらいなど、日常生活上たいへん不便になります。これらの症状は、急に悪くなるのではなく、10年から15年ぐらいの期間で徐々に進行してきます。ご本人は、股関節が心配なのだが手術を勧められるのが嫌なので受診しないこともあると思われます。

一般の整形外科の医師では、最新の治療法などを熟知しない医師もおります。専門医を受診される方が、最新の治療法も分かり、今後の生活スタイルなどへのアドバイスも受けられると思います。

協力:
同愛記念病院
人工関節センター

 この情報サイトの内容は、整形外科専門医の監修を受けておりますが、患者さんの状態は個人により異なります。
詳しくは、医療機関で受診して、主治医にご相談下さい。