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変形性膝関節症の様々な手術方法について

整形外科 谷川 英徳済生会横浜市東部病院

済生会横浜市東部病院 整形外科  医長
白井聖仁会病院 整形外科
谷川 英徳(たにかわ ひでのり)

はじめまして。代表的な変形性膝関節症の手術治療には、①関節鏡手術、②高位脛骨骨切り術(こういけいこつこつきりじゅつ)、③人工膝関節単顆(たんか)置換術・人工膝関節全置換術と様々な方法があります。今回はその治療法について簡単に紹介したいと思います。

 

はじめに、変形性膝関節症とは?

変形性膝関節症のエックス線写真

日常生活の中で膝には常に負担がかかっています。骨と骨の間には軟骨と呼ばれるクッションがあり、膝関節への衝撃を和らげ吸収する役割を果たしています。加齢とともに軟骨が徐々にすり減ってくると、骨と骨とが直接ぶつかるようになり、膝の痛みの原因となります。厚生労働省の調査によると、国内での変形性膝関節症患者数は、自覚症状を有する患者数で約1,000万人、潜在的な患者数 (X線診断による患者数)で約3,000万人と推定しており、患者数は年々、増加しています。

①関節鏡手術

膝の変形が進行していない、初期の変形性膝関節症に対して行われる治療法です。関節内ですり切れた半月板や軟骨のささくれを取り除いたり、増殖した滑膜を除去したりします。簡単にいうと、加齢とともに膝の中に生じたゴミを掃除するようなイメージです。

関節鏡手術

この手術では、関節内部の異常を観察して、診断を行うと同時に、治療も行います。例えば、半月板が断裂していた場合は縫合術を追加したり、軟骨がひどく損傷されていた場合はマイクロフラクチャー(軟骨に小さい穴を開けて出血させ、治癒を促す手術)を追加したりします。
関節鏡を用いた小さな傷で手術できるので、1cm程度の傷2〜3箇所で手術を行うことが可能です。術後も早ければ翌日に退院することができるので、仕事に支障をきたす事なく治療を受けていただくことが可能です。
ただし、この治療では膝の変形は治すことができませんし、軟骨や半月板が再生するわけではないので、一時的に痛みを取ることを治療の目的として行われます。

②高位脛骨骨切り術(こういけいこつこつきりじゅつ)

高位脛骨骨切り術のエックス線写真

骨切り術は比較的若い、40〜60代の仕事やスポーツを積極的に行ってゆきたい患者さまに行う治療法です。膝が変形すると(O脚やX脚といいます)体重のかかる部分が膝の中央でなくなり、膝の内側や外側の軟骨や半月板といったクッションが傷んできます。この膝の変形を、骨を切って矯正するのが骨切り術です。
骨切り術でもっとも良く行われるのは「高位脛骨骨切り術」という手術です。膝下の内側を8cmほど切開します。脛骨(すねの骨)を斜めに切り、変形の程度に合わせて脛骨に角度をつけます。体重が膝の真ん中にかかるように調整したら、人工骨を間に挟み、金属のプレートで固定をします。さらに半月板の損傷や軟骨の損傷が合併している場合は、それを修復する手術を追加で行うこともあります。
骨切り術のデメリットとしては、術後に切った骨の部分が治癒するまで時間がかかる、骨切り部の痛みが取れるまで時間がかかる、固定した金属プレートを1年後に抜去する必要があることが挙げられます。しかし、自分の骨を温存できるため、膝の曲げ伸ばしは手術前と同じようにでき、動きや運動に制限がないことがメリットです。そのため、仕事が重労働であったり、マラソンや登山など膝の負担が多いスポーツ継続を希望される場合にも対応できます。

③人工膝関節置換術(単顆置換・全置換)

人工関節置換術のエックス線写真

変形性膝関節症は60歳以上の変形が進んだ患者さまに行う治療です。変形した膝関節の表面を薄く削り、人工の関節(人工関節)に置き換える手術です。大きさは違いますが、イメージとしては歯のインプラント治療に似ている手術です。痛みの原因になる部位を金属で覆ってしまうため、術後早期から膝痛の改善に大きな効果があります。リハビリテーションでは、術後翌日から歩行を開始します。3~4週間で階段昇降ができるようになったら退院となります。
手術では膝の前面を切開し、大腿骨、脛骨(および膝蓋骨)の痛んだ部分を削ります。金属の形にあうように骨を形成してゆき、骨セメントと呼ばれる接着剤を用いて人工関節を骨に固着して手術を終わります。膝蓋骨(お皿の骨)も必要に応じてポリエチレンで置換します。最近では、ナビゲーション技術など新しい技術が開発され、正確に手術を行うことができるようになりました。
人工膝関節置換術には全置換術と単顆置換術の2種類があります。膝関節全体が痛んでいる場合は全置換術を行い、内側だけが痛んでいる場合は部分的に置換を行う単顆置換術を行います。単顆置換術は術後の回復が早い、違和感が少ないというメリットがあります。人工膝関節を行なっても、ゴルフ、卓球などのスポーツを楽しむことができます。

変形性膝関節症の治療は変形の程度、年齢、筋力、生活の活動度など、多くのことを考慮して治療方法を選択します。どの治療法も一長一短ですので、主治医と相談して自分に合った治療法を選んでゆきましょう。