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人工股関節置換術における ナビゲーション手術について

最近は目的地に正確に到着できるようナビシステムを自動車に装備することも少なくありません。人工股関節の手術においても同じ原理を用いて、より正確な手術を行うことを目的としてナビゲーションシステムがあります。このコラムではナビゲーション手術の実際について触れさせていただきます。

1.人工関節置換術とは

人工股関節置換術は変形した関節を取り除き、金属、セラミック等で組み合わせてできた人工の関節を挿入する手術です。人工関節手術により痛みを取り除くことはもちろんのこと、それに加え、変形により生じていた下肢の長さの違いを調整し、歩容を改善する効果が期待できます。

2.ナビゲーションシステムの特徴

正常な形をした関節に、決まった大きさの人工関節を入れ替えるのなら少しは容易かもしれません。しかしながら、皆それぞれに変形が高度となり手術まで至っているため、それぞれの患者さんに対して様々な調整が必要となります。人工関節を正確に設置することが、確実な除痛、脚長差きゃくちょうさ(左右の脚の長さの差)の改善、人工関節の耐久性の向上につながります。ナビゲーション手術とは①手術前に、詳細なCT画像を基にその患者さんに最適な人工関節のデザインをコンピューター画面上に描きます。②手術中は手術器械を赤外線でモニターすることにより、実際には見えない部分もコンピューター画面に映し出し、作成したデザイン通りに人工関節が設置できるように導きます。つまり、ナビゲーションシステムは、①手術前に行う人工関節のプランニング(設置位置、人工関節の型・サイズの決定)②手術中の操作の正確性の向上、の2点に有用です。

3.人工関節手術を、家造りに例えると…

人工関節手術を自宅の新築に例えてみましょう。新築現場は区画整理された四角い土地ではなく、かなり傾斜のある荒地とします。まず丈夫な地盤を確認し、十分な強度が得られるような精密な設計図が必要です。ナビゲーション手術では手術前に撮影したCT像から三次元的な画像を作成します。痛んだ骨盤の一番丈夫なところに、しかも機能が最高に発揮できるところをコンピューター上の立体的モデルで探し出し、術前計画をします。次に、実際の工事に取り掛かります。自宅新築ではベテランの大工さんに期待するでしょう。ナビゲーション手術では先に計画した通りに手術が出来るよう、実際には見えない部分をコンピューター画面に映し出し、計画通りの位置に正確な角度、長さで人工関節が設置できるよう手助けします。

4.最後に

皆さんに誤解のないように申し添えると、ナビゲーションシステムは万能な魔法の機械ではありません。あくまで術者が使う一つの道具であり、やはり手術をする医師がきちんと使いこなさない限り無用の長物となってしまいます。また、欠かすことの出来ないものではなく、これがなくとも、経験を積んだ医師が細心の注意を払って行った手術に勝るものはないと考えます。しかしながら、特に重度の変形があり、なかなか人工関節の設置位置が決められないような患者さんの手術には手術前のプランニング、手術中の細部の確認という点で術者にとって心強い味方であり、ひいては手術される患者さんにも少なくないメリットがあるといえるでしょう。