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人工関節による治療の進化:手術も、手術以外のケアも…

整形外科 部長・診療科長 新倉 隆宏 兵庫県立西宮病院

兵庫県立西宮病院 整形外科

部長・診療科長 新倉 隆宏 先生

   

人工関節置換術は、股関節、膝関節とも20-30年前に比べると長足の進歩を遂げています。医学の進歩、手術技術の進歩、人工関節インプラントの進歩により、安定した、良好な治療成績が得られるようになっています。手術の手技、技術だけなら、もちろんそれぞれの病院の長所はあっても、人工関節置換術を専門的にできる病院であれば日本全国、さらに世界でも大差はないかも知れません。とすると、人工関節による治療をさらに発展させ、患者さんに喜んでいただくためには、手術だけに注力するのではなく、手術以外のケアもこれまで以上に積極的に取り組んでいくことが重要と私は考えています。

ナビゲーションシステムを駆使した手術

近年では股関節、膝関節ともにナビゲーションシステムを用いた人工関節置換術を行うことが増えてきました。ナビゲーションシステムは正確な位置、角度で人工関節インプラントを設置することをサポートします。これによって人工股関節の脱臼など、手術による合併症を減らすことが期待できます。

膝の単顆置換術

慎重に手術の適応を見極め、実施可能な患者さんに対しては膝関節を全て人工関節インプラントに置き換えるのではなく、軟骨の傷んでいる部分だけを置き換える手術を行います。全て置き換える手術に比べて、体にかかる負担が少なくなります。

術後の鎮痛管理

いくら手術が成功しても、術後の痛みが強ければ辛いですよね。麻酔科の医師と密に連携し、術後痛くないように鎮痛管理に力を入れている病院もあります。神経ブロック、注射などで術後の痛みをやわらげます。

骨粗鬆症こつそしょうしょうに対する診療

関節だけでなく、骨もケアすることが重要と私は考えています。股関節、膝関節の人工関節置換術を受ける患者さんの多くは高齢者です。高齢者は関節が悪くなるだけでなく、骨も弱くなっている場合があります。骨粗鬆症で骨が弱くなっていると、骨が人工関節をしっかり支えられなくなったり、人工関節の近くで骨折したりして困ることになります。私は人工関節による治療だけでなく、患者さんごとに骨の状態をチェックし、必要に応じて骨粗鬆症の治療も行うことが大事だと考えます。

専門的なリハビリテーション治療

しっかり歩けるようになるためには、術後のリハビリテーション治療も非常に大事です。術後早期から、理学療法士が専門的なリハビリテーション治療を行う病院もあります。

先進的なリハビリテーション治療

私は前任地:神戸大学整形外科において、「炭酸ガス経皮吸収療法」という先進的な医療の研究開発に取り組んできました。炭酸温泉につかると体の血流が良くなることがよく知られていますよね。これと同じことを効率的に体に対して行うことができるのが炭酸ガス経皮吸収療法です。これまでの研究から、患者さんの脚の血流を良くする、筋肉に良い作用を及ぼすといったことが示されており、リハビリ効果促進が期待できます。患者さんの体に対する安全性も実証しています。このようにリハビリと言っても、いろいろな手段があります。どのような対策を行っているかは各病院によって違いがあると思いますので、手術を受ける前に主治医の先生によく相談されることをお勧めします。

ナビゲーションシステムを駆使した人工股関節全置換術