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第30回『“いつもの痛み”を放置しないで。膝の健康を守る第一歩』

中川匠 先生

「膝の痛みが気になって、趣味が楽しめない」「足が疲れやすくなり、遠出を避けるようになった」こうした膝の症状で、日常に影響を感じている方もいらっしゃるかもしれません。膝の状態について正しい知識を持ち、早期に適切な治療を行うことで、生活の質の維持につながる可能性があります。今回は、帝京大学整形外科教授 中川匠先生に、変形性膝関節症の原因や、現在行われている治療の選択肢についてお話をうかがいます。

  1. 「まだ大丈夫」と思っていませんか?膝の痛みの原因と40代以降に増えるサイン
  2. 早めの受診が、未来の自分を守るカギ。専門医に相談するタイミングとその重要性
  3. 人工関節ってどうなの?手術のリアルを知ろう。単顆置換術と全置換術の違いと特長
  4. ロボットが手術をサポート、進化する医療技術。ロボット支援人工関節置換術のメリット
  5. もう一度、すきなことを楽しむために 痛みのない明日へ向けて、今できること
  6. webサイト関節の広場

1.「まだ大丈夫」と思っていませんか?膝の痛みの原因と40代以降に増えるサイン

膝の痛みを感じる主な要因のひとつに、「加齢」に伴う関節の摩耗があります。年齢とともに軟骨がすり減り、骨同士が接触することで、痛みや炎症が生じやすくなるとされています。また、肥満による膝関節への負荷や、「骨粗しょう症」の進行が膝関節に影響を及ぼすこともあり、外見では分かりにくい内部の変化が進行している場合もあります。

日常生活の中では、立ち上がる時や歩きはじめ、階段の昇り降りなどで膝の違和感を覚える方が多く見られます。膝に「腫れ」や「水がたまる」といった症状が現れることもあります。以前は10分で歩けた距離に、今は30分以上かかる―このような移動能力の変化から、体力の低下・衰えとは異なる、膝の動きの不自由さに気づく方もいらっしゃいます。

膝の不調は、日々の動作に少しずつ影響を与え、正座がつらくなったり、階段を避けるようになったり、スポーツや外出が負担に感じられるようになることもあります。こうした変化は、生活の質(QOL)に影響を及ぼす可能性があり、背景には、「変形性膝関節症」が関係しているケースもあります。日本国内には、膝の痛みに悩む方が、2,500万人以上(※)いると推計されています。

(※出展:日本整形外科学会 変形性膝関節症ガイドライン2023の統計)

2.早めの受診が、未来の自分を守るカギ。専門医に相談するタイミングとその重要性

初期のサインを逃してしまうと、治療の選択肢が限られたり、回復に時間がかかる可能性があります。
痛みの初期段階では、保存的治療(運動療法や薬物治療など)で経過を観察することもありますが、その間に痛みが悪化と軽快を繰り返すケースも見られます。一時的に症状が軽くなることで「もう大丈夫かもしれない」と感じ、受診を先延ばしにしてしまう方も少なくありません。
しかし、症状が進行してから専門医を受診した場合、治療がより複雑となり、身体への負担が大きくなることもあります。その結果、回復にも時間を要する可能性も考えられます。膝の違和感を「年齢のせい」と見過ごさず、早めに専門医を受診し、適切な対応を検討することが大切です。

3.人工関節ってどうなの?手術のリアルを知ろう。単顆置換術と全置換術の違いと特長

膝の痛みで専門病院を受診すると、まずX線検査などの画像診断で膝関節の状態を確認します。さらに、問診や触診などを含めた総合的な評価を行い、患者さん一人ひとりに最適な治療方針を検討します。治療法には大きく「保存的療法」と「外科的治療」に分けられます。
保存的療法には、運動療法、物理療法、薬物療法、関節内注射などがあり、変形性膝関節症の初期段階では、これらの方法で症状の改善が期待されることもあります。

一方で、痛みや機能制限が進行している場合には、外科的治療が検討されることがあります。外科的治療には、関節全体を人工関節に置き替える、人工関節全置換術(じんこうひざかんせつぜんちかんじゅつ)(以下、全置換術[ぜんちかんじゅつ])と、前十字靭帯を温存し、膝関節の一部のみを置き替える人工膝関節単顆置換術(じんこうひざかんせつたんかちかんじゅつ)(以下、単顆置換術[たんかちかんじゅつ])があります。どちらの術式を選択するかは、画像診断や診察結果をもとに、骨や靭帯の状態、膝の可動域などを総合的に判断して、専門医が決定します。
単顆置換術は関節の一部のみを置き替えるため、筋肉や靭帯を温存できる点や、手術の侵襲が比較的少ない点が特徴とされています。術後の回復も早い傾向があり、リハビリ期間は1~2週間程度、スポーツの再開は3~6か月を目安とするケースもあります。

4.ロボットが手術をサポート、進化する医療技術。ロボット支援人工関節置換術のメリット

人工関節手術に対しては、「術後元通りに動けるのか」「リハビリが長引くのでは」といった不安を感じる方も少なくありません。関節の一部のみを置き換える単顆置換術は、身体への負担が少ないとされる低侵襲手術の一つで、術後の回復が比較的早い傾向にあります。ただし、手術の難易度が高く、術後成績にばらつきが出ることや、再置換のリスクが指摘されることもあります。

こうした課題に対応する技術として、近年ではロボット支援による人工関節置換術が導入されています。ロボット支援手術では、術前に撮影したCT画像をもとに、モニター上で0.5mm・0.5度単位で骨の切除位置を計画し、術中はロボティックアームが医師の操作を支援します。これにより、術前計画に基づいた再現性の高いインプラント設置が可能になるとされています。
ロボットはあくまで医師の手術を補助するものであり、自動で手術を行うものではありません。術者の経験や判断とあわせて、より安定した手術の実現を目指す技術として注目されています。

5.もう一度、すきなことを楽しむために。痛みのない明日へ向けて、今できること

変形性膝関節症は、早期に適切な治療を行うことで、日常生活への影響を軽減できる可能性がある疾患です。膝に軽い違和感を覚えた段階でこそ、整形外科での専門的な診断を受けることが重要です。 症状が進行する前に対応すること、治療の選択肢が広がり、回復までの期間を短縮できる可能性もあります。

膝の痛みをきっかけに控えるようになった運動や旅行、正座や階段の昇降など、日常の中で感じる不自由さを放置せず、今一度、自分らしい生活を見直すきっかけとして、専門医への相談を検討してみてはいかがでしょうか。

6.webサイト関節の広場

「関節の広場」では、変形性関節症に関する疾患情報や治療法など、関節の健康に役立つ情報を掲載しています。

詳しくはこちらをご覧ください

協力:
帝京大学医学部附属病院 整形外科 教授 中川 匠先生


※本記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、特定の治療法の効果を保証するものではありません。症状に関するご相談は、医師にご相談ください。