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第18回 『人工膝単顆置換術=UKAとは』

DR_Hamaguchi現在、日本で行われている人工膝関節手術は、膝関節をすべて人工物に置き換える人工膝関節全置換術が9割以上をしめていますが、近年、関節の一部のみを人工関節に置換する「人工膝関節単顆置換術(人工膝関節片側置換術)が増えつつあります。そこで、今回は人工膝関節単顆置換術の経験豊富な我汝会さっぽろ病院 整形外科 浜口英寿 先生にお話を伺います。

  1. 人工膝関節単顆(たんか)置換術 :Unicompartmental Knee Arthroplasty (UKA)とは?
  2. 人工膝関節全置換術=Total Knee Arthroplasty (TKA)との違い
  3. UKAのメリットと将来の展望
  4. 手術適応(手術をする条件)
  5. まとめ

1. 人工膝関節単顆(たんか)置換術 :Unicompartmental Knee Arthroplasty (UKA)とは?

膝人工関節にはさまざまな種類がありますが、「すり減った関節の表面を削って金具をかぶせる」方法が一般的です。ちょうど虫歯の治療で歯医者さんが「虫歯を削って、銀歯をかぶせる」方法に似ています。

wadai018-1膝関節は、関節の内側と外側、そして前方にある膝蓋骨(膝のお皿)の3カ所で体重を支えています。関節のすり減りが「内側だけ」または「外側だけ」の場合に、「そこだけ」を人工関節で入れ替えをする方法が人工膝関単顆置換術UKAです。ほとんどの場合、すり減りは「内側」に起こります。
それに対して人工膝関節全置換術TKAは、内側以外にも骨のすり減りや破壊が進んでいる場合に行われます。たとえるなら「総入れ歯にするのがTKA、部分入れ歯がUKA」でしょうか。
関節の一部のみを手術するUKAは、膝への負担が非常に少なく(少侵襲)、回復も早く、自分の膝の感覚が生かせるため、優れた手術方法として世界的に拡大しています。

単顆型人工関節(インプラント)

wadai018-2UKAで使用するインプラントは、単顆型人工膝関節(または片側置換型人工膝関節)と呼ばれています。
単顆型人工関節にはいくつかの種類がありますが、①脛骨コンポーネントにインサートが固定されるタイプ(固定型)と、②膝の動きに合わせて脛骨コンポーネントの上でインサートが動くタイプ(モバイル型)の2種類に大別され、同じくらいの割合で使われています。

 

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 2. 人工膝関節全置換術=Total Knee Arthroplasty (TKA)との違い

wadai018-4TKAは、膝関節の内側も外側も膝蓋骨の裏側もいっぺんに取り替えます。TKAは膝全体のすり減りと変形が進行している方に適応されます。以下にTKAとUKAの比較を記します。(表記の数値は平均的なもので、手術の条件によって変化しうるものです。)

 

 

手術時間

手術時間については、TKAは1時間30分から2時間が平均的ですが、UKAでは1時間から1時間30分ほどに短縮できます。両膝同時にUKA手術を行う場合もありますが、体への負担は両側同時TKAよりも軽くすみます。

出血量

出血量は、TKAは片膝あたり400~600ml出血しますが、UKAでは100~200mlほどですみます。

創の大きさ

TKAでは12~13cm、UKAの場合は8~10cm程度です。

手術後の痛み

手術後の痛みはTKAでより顕著です。関節全体の骨、靱帯、筋肉などを切除したり剥離したりするためです。UKAでは骨切除も内側だけですし、靱帯や筋肉の剥離はしないか、しても最小限であり、手術後の痛みに対してもUKAは優位です。

リハビリテーション

リハビリテーションの内容はTKAでもUKAでも基本的には変りません。ゆっくり動かす、可動域を広げていく、筋力を維持する、車いすに乗る、平行棒や歩行器で歩く、階段の練習をする、1本杖になる、などです。
その達成時期はUKAがより早い傾向にあります。膝への侵襲が少ないため、膝の感覚の大部分が残されており回復もより確実により早くなると考えられます。当院での入院期間は、回復期病棟での療養を含めてTKAで4~5週間、UKAで3~4週間程度です。

術後の生活

TKAでは、手術後にいくつかの活動制限がありますが、UKAの場合もほぼ同じで、「飛ぶ」、「跳ねる」、「走る」、それから相撲やレスリングなど体が直接触れ合うようなスポーツは避けるように指導しています。また、正座についてはできる方もいらっしゃいますが、人工関節への負担を考え、お勧めはしていません。

合併症

TKAと共通している合併症は、感染、術中の靱帯や神経・血管の損傷などです。
この他、UKAに特有のものとして、脛骨顆部の骨折:インプラントの下で骨が折れること、インサート(ポリエチレン)が早期に摩耗すること、手術をしていない反対側の症状が進行することなどがあります。また、モバイル型に特有のものとして、インサートが外れてしまうこと(脱転)があります。

再置換術

TKAの寿命は15~20年と言われています。UKAの場合は、近年普及しだしたこともあり、再置換術はまだ少ないです。
UKAを行って10年くらい経過すると、反体側の関節に変化が出てくると言われていますが、その場合も、手術をする場合もあればそのまま様子を見る場合もあります。
また、TKAと同様に、インサートがひどく摩耗してきた場合は、再手術でその部分だけを交換します。
コンポーネントがゆるんでしまった場合には、次はTKAを行うべきだと思います。基本的には、UKAが「最後の手術」というつもりで医師も臨むべきですが、TKAへの再置換術が必要になる場合もあります。ただし、UKAからTKAへの手術はそれほど難しい手術にはなりません。

3. UKAのメリットと将来の展望

メリットはなんと言っても患者さんの回復の早さと高い満足度です。完成度の高いTKAでも、UKAの満足度にはなかなかかないません。

両側の同時手術で、片側がTKA、もう片側UKAという患者さんがいますが、術後にどちらの膝がなじんでいるかと聞くと、ほぼ全員が「UKAのほう」と答えられます。
TKAはすでに15~20年間の良好な長期成績が認められています。長期成績に不安が残るとされたUKAですが、自分の残された組織の働きを邪魔せず、逆に利用して良い運動性能を引き出すことと、さらにポリエチレンの摩耗やコンポーネントのゆるみをより少なくすることをめざして製品や手技の開発が進められています。これらが達成されると手術適応年齢の再考が起こり、より低年齢でUKA手術が行われるかもしれません。

4. 手術適応(手術をする条件)

同じ手術を受けるなら、より侵襲の少ないUKAを望まれるかたも多いとおもいますが、病態や患者さんの状態によって適応とならない場合もあります。適応となる病態の条件は表1のようなことがらです。

表1 適応となる関節の状態

  • すり減りは内側(または外側)が主であること。
  • 骨壊死の場合、その範囲が人工関節の固定力に影響を及ぼさない程度であること。
  • 反対側の関節面が保たれていること。
  • 内側(あるいは外側)以外の軟骨や、膝の中の大事な4本のじん帯[?]の機能が十分に保たれていること。
  • 膝蓋骨のすり減りはあっても、その痛みが強くないこと。
  • 関節リウマチのように関節全体に及ぶ炎症性疾患ではないこと。 など。

この他、患者さんの要件として、年齢(60歳以上が目安)、高度な肥満ではないこと、肉体労働者やスポーツ愛好者の場合は、術後の制限について理解が得られることなどが挙げられます。
また、手術をする条件を満たしていても、前十字じん帯[?]

が断裂している場合、前十字じん帯の機能が不十分な場合、膝の伸展がマイナス20度より悪い(膝が伸び切らない)場合、膝が90度以上屈曲できない場合、炎症性疾患や化膿性疾患がある場合は、適応から除外されます。
これらのことを総合的に判断して手術するかしないかを決定します。

5. まとめ

UKAは今後さらに症例数が増えていくと思われます。最終的な置換術としてのUKAが増えていくのはもちろん、今後は将来のポリエチレン入れ替えやTKAへの入れ替えを見据えた若年者への適応拡大も言われています。

UKAのインプラントについても、医師はそれぞれの歴史的背景と利点を良く理解し、的確な手術適応判断と手技の向上を目指すべきであると思います。また、超高齢社会をむかえるにおいて、低侵襲と満足できる結果を残せるUKAはまさにうってつけの治療手段ですが、その適応と手技は厳密に行われるべきであると考えます。

協力:
我汝会さっぽろ病院
整形外科
浜口 英寿 先生

この情報サイトの内容は、整形外科専門医の監修を受けておりますが、患者さんの状態は個人により異なります。
詳しくは、医療機関で受診して、主治医にご相談下さい。