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人工関節手術におけるリハビリテーションの進歩

整形外科 部長 薮野 亙平 大阪中央病院

健康保険組合連合会 大阪中央病院 
整形外科 部長    薮野 亙平(やぶの こうへい)

3D(三次元)術前計画、ロボット支援手術、人工関節の素材の進化、低侵襲手術など人工関節領域においても日進月歩で革新的技術が生み出されています。

しかし、忘れてはいけないことが、手術前後のリハビリテーションも進歩していることです。これまで、関節外科医の多くは手術だけを考えていましたが、患者様がいかに安心して安全に手術を受けられるか、そして早期に機能回復していただくためにリハビリテーションについて考えることも関節外科医として重要です。手術がたとえ短時間で終わったとしても、その後のリハビリテーションにかかる時間を100日間とすると2,400時間になります。こんなに長い時間を費やすリハビリテーションが、大切であるということを再確認したいと思います。

さて、今回はリハビリテーションの進歩について、手術当日からリハビリテーションをはじめる「デイゼロ-リハ」について話したいと思います。

はじめに、聴き慣れない言葉であることは当然ですが、欧米の人工関節のトップ施設では、このデイゼロ-リハを行う施設は数多くあります。こういった取り組みにより、入院期間が欧米では数日間であることが多いです。手術後、早く元気に回復したいという願いは世界共通なのです。

また、意外と知られていないのが、朝9時から手術を行い、翌朝9時まで病院の狭いベッドで寝返りも自分でできない状態は、想像以上に辛いということです。そこで、日本人向きにデイゼロ-リハをアレンジし、ベッドサイドリハビリテーションを当日より行いました。そのことにより、夜間も寝返りすることができます。実際にデイゼロ-リハを行なった患者様は、翌朝の腰痛も軽減し、手術翌日のリハビリテーションがスムーズに進み、機能回復が早いという結果になりました。このことで、入院期間を短縮することができ、患者様が負担する入院医療費が下がるという結果にもつながりました。医療費高騰で悩まされる我が国にとってもデイゼロ-リハは費用対効果の観点からも有効です。この研究は、アメリカ基礎整形外科学会(Orthopedic Research Society)において2018年に表彰されました。

低侵襲手術をおこない、当日リハビリテーションを行うことで、より体に負担が少なく、早期回復し、入院期間が短縮されることが、今後我が国でも標準化されていくと思われます。