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第9回 『人工関節置換術の痛みとリハビリテーション』

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同愛記念病院
整形外科
立石 智彦 先生

今回は、『人工膝関節置換術の痛みとリハビリテーション』について、同愛記念病院整形外科の立石智彦先生に伺いました。立石先生はスポーツ障害にたいする治療も多く行っており、早期退院に向けたリハビリにも積極的に取り組まれています。

 

 

 

  1. 人工膝関節置換術における両側同時手術と片側手術の違い
  2. 疼痛管理
  3. リハビリの進み方
  4. 血栓予防について
  5. 社会復帰について
  6. 最後に

1.人工膝関節置換術における両側同時手術と片側手術の違い

wadai009-2変形性膝関節症では、両方の膝がほぼ同時に悪くなる人が多く、そのような人には両側同時に手術を行います。そうではなく、片方ずつ悪くなり、片方だけ軟骨が磨り減っている人には片側ずつ手術を行います。変形性関節症の進行度は6期に分けられますが、片側がⅤ期くらいで手術適応ならばそちらは手術を行います。そして、反対側がⅢ,Ⅳ期だと、するかしないか状況によって考えます。Ⅱ期くらいだと手術はしません。片側の手術をして荷重肢ができることで、もう片側の手術をしないですむ人もいます。もともとの反対側の膝の進行具合で両側するか片側するかを選択します。本当に両方とも悪い人には両側手術を勧めています。
例えば、O脚変形が強い場合、片側だけ手術をすると足の長さに大きく差が出て、手術後のリハビリや次の手術までの生活がしづらいという訴えが多いので、近い将来もう一方の膝も手術しなくてはいけないという人には、両側同時手術を勧めます。

両側同時手術のメリッ

手術の痛みは両側したからといって痛みが2倍になるわけではなく、痛みは大きく変わらないということです。同じ痛みを2度体験するよりも本人にも楽なのではないかと思います。患者さんの医療費の支払いもやすくなります。

両側同時手術のデメリット

感染と静脈血栓の可能性が少し上がることだと思います。人工関節を2ヶ所に入れるので、1ヶ所よりも感染率が上がると考えられます。静脈血栓については、やはり手術後両方の足を動かさなくなってしまうので発生の可能性が多少多くなると研究でも言われています。輸血のデメリットもなくはないと思います。現在は、止血帯(タンニケット)を使ったり、止血の薬を点滴にいれることもあるので出血は少なく、片側の手術の場合は当院では自己血の貯血は行っていません。貧血の人以外は、輸血をしなくてはならない人はほとんどいません。しかしながら、両側手術の場合は出血が片側に比べると多くなり術後の貧血が出てくるので、手術前に自己血の貯血を行います。自己血があれば、他人の血を入れることなく手術を行うことができます。しかし、高齢の方は手術前に外来で自己血をとると、ふらふらして帰宅するのが大変になることがあるので、75歳を超えた方では、自己血を手術前にとるかどうかは、ご本人の状態をみて決めています。

入院期間

だいたい片側で3,4週間、両側で4,5週間です。ほとんど期間は変わりません。両側か片側かということよりも、その人が元々どれだけ歩けていたかが大きく影響します。手術後のリハビリはどちらも変わりません。

2.疼痛管理

術後の痛み

手術前の患者さんは「痛いのが怖い」とよく言われます。手術後の一番痛い期間はだいたい術後24時間なので、痛み止めは背中に入れた細い管を通して麻酔薬を1、2日間ぐらい持続的に入れます(持続硬膜外麻酔)。
手術中は、腰から下の麻酔でする場合が多いです。それだけで痛みはもちろんありませんが、手術中に音が聞こえないように眠る薬を点滴で入れます。
手術中・手術後の痛みを緩和するために硬膜外麻酔はとても有用ですが、それでも痛く感じるときは点滴、座薬で痛み止めを追加します。本当に痛いのは手術後1,2日ですが、その後も傷の表面の痛みはあります。表面の痛みも徐々に薄れ2~3ヶ月でなくなります。体重をかけて立ったときの関節の痛みというのは、手術後早期よりなくなります。

リハビリでの痛み

手術後は定期的に痛み止めを飲んでおり、それがしっかり利いているのでリハビリ前にそれ以上使うことはほとんどありません

3.リハビリの進み方

患者さんは手術の2日前くらいに入院し、手術前からリハビリを開始します。術前のリハビリの大きな目的としては、膝以外にも、人によって肩が痛かったり股関節が悪かったりするので、術後のリハビリで何を注意したらよいかを知ることがあります。その他にも、杖は使う人なのか、どんな杖を使っているのか、両側か片側かなどをチェックします。また、手術前に理学療法士と顔を合わせることで、手術後のリハビリがスムーズに行くように心がけています。
術後はだいたい1日目はゆっくりしてもらうことが多いですが、2日目からは車椅子に乗り、少しずつ歩行のリハビリが始まります。
リハビリで膝を曲げるときは、やはり「ちょっと痛いね」という方も多いです。リハビリの短期成績が悪くなる因子としては、痛みの感じ方が強いこと、手術前の膝の曲がる角度が少ないこと、筋肉の攣縮(れんしゅく=ひきつり)などがあり、このような人はリハビリがなかなか進みません。痛みが出ることが怖くて力が入ってしまい、筋肉の攣縮が起こりさらに力が入ってしまうため、それ以上リハビリが進みません。本人にはそんなつもりはなくても、無意識に怖くて力が入ってしまうので、その恐怖感をいかにとる事ができるかが理学療法士の技術だと思います。
理学療法士が術前から術後のスケジュールを説明しているので、安心してリハビリに通えます。しかしリハビリを先に始めた人と、後に始めた人が並んでリハビリを行っていることで、あの人に負けたくないとか、あそこまでできるようになるんだという目標が目の前にいることが一番の安心感と刺激になるのだと思います。

4.血栓予防について

血栓症は怖い病気なので、最大限できることはしようという考えで予防を行っています。
現在使用している血栓予防薬は当院では市販前の治験の段階から関わっているもので、市販後当院でも使用している薬です。術後翌日から血栓予防の注射薬の皮下注射を1日1回行い、だいたい抜糸するくらいまでの2週間行います。現在、同じ薬で内服の治験も行っています。やはり皮下注射を毎日されるのは痛いので、内服の薬の有用性が認められて使えるようになれば内服に変えたいと思っています。
血栓ができると、症状としては足がむくみます。人工膝関節置換術をした場合、症状のない小さな血栓ができる可能性は手術をした人の半分くらいであるといわれています。足のむくみがあり、血液検査データを見て血栓の疑いのある人はCTで確認し、内服の血栓予防薬であるワーファリンなどを使用して治療します。それ以外には弾性ストッキングを併用しています。

5.社会復帰について

手術が終わってすぐに歩けるようになりますが、術後2,3ヶ月は表面の傷がちりちりといたいことがあります。簡単な軽作業ぐらいなら仕事に復帰している人も中にはいます。医者からはあまり重労働は勧められません。しかし、結局は本人のニーズですので、どうしてもという人はすると思います。たとえば、田舎の農業の方でどんなに曲がっていても「みんなこんなものだ」と手術しない人もいれば、都会の方ですこし痛いぐらいでも痛みをとって旅行してどんどん歩きたいという人は、変形は少なくても手術する人もいます。退院後に実際にされていることとしては、ゴルフ、ゲートボール、近所のバス旅行です。

歩容について

痛みをとることがメインの手術ですが、膝が曲がってO脚だったものがまっすぐになり、歩容(歩く姿)がかなりよくなります。近所の人に久しぶりに会ったらびっくりされたという話もよく聞きます。
手術後、半年以上たつと歩くスピードが速くなります。手術前は置いていかれていたけれど、今ではみんなと一緒に歩いて、バス旅行でもなんでもいけるようになったと喜ばれる方も多いです。

杖について

杖は退院のときはついてもらっています。最初は杖をついて家の周りを杖ついて練習してもらい、3ヶ月くらいで調子よければ外していいですよと言っています。
昔は、一生杖をついていたほうがいいと言っていましたが、今は本人のニーズに合わせています。かっこ悪いから杖をつきたくないといわれる方が多いです。中には、杖をつきたくないから手術したという方もいるくらいです。

正座について

理論的には、正座できるほど曲がる人工膝関節がありますが、実際は手術前に曲げることができていた角度以上に手術後に曲げることは難しいです。手術前に正座していた人はできるかもしれませんが、人工膝関節を長持ちさせるという観点からいくと、人工関節を酷使すれば、それだけ早く悪くなる可能性も高いので、正座できる人工関節が本当に良いかどうかは難しい問題です。

6.最後に

近年、人工関節は、両側、片側とも安全にできるようになっています。手術後、痛みがあるのではないかと不安になることもあると思いますが、興味のある方は病院で気軽に医師に相談してください。

協力:
同愛記念病院人工関節センター

この情報サイトの内容は、整形外科専門医の監修を受けておりますが、患者さんの状態は個人により異なります。
詳しくは、医療機関で受診して、主治医にご相談下さい。