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第7回 『ナビゲーションを使用した人工膝関節置換術と先進的な手術室』

wadai007-1当サイトの中の先進治療の中でも紹介している、『ナビゲーションと人工膝関節置換術』『先進的な手術室について』などを、広島ではじめて『ナビゲーション』を導入し人工膝関節置換術を行っている、広島クリニック 院長 天野幹三 先生に伺いました。
広島クリニックでは、ナビゲーションの導入のほかにも、患者さんにとって安全で最適な手術を行うための環境を整えることを考え、先進の手術室システムを導入しています。これは、床にたくさんの物を置かずに、天井から釣ることができるため、医療者の手術室内での移動がスムーズであり、転倒や、清潔な部分を汚してしまうというようなリスクを軽減することができます。また、手術室の清潔についても、掃除などの清潔管理が容易で、感染対策としても大変有効です。また、手術中に必要な画像をすぐに映し出すことができるモニターがあり、手術中いつでもどこからでも画像をチェックすることができ、とても便利です。そして、手術室の外でも手術の映像を見ることができるような画像情報管理システムも導入されています。
ナビゲーションに関する、詳しい説明は『先進医療』をご覧ください。

  1. ナビゲーションの導入を考えたきっかけを教えてください。
  2. 人工関節手術を行う上でのポイント
  3. ナビゲーションを利用することでの利点と問題となる点は?
  4. ナビゲーションを使用する前と後で大きく違うことはありますか?
  5. 最後に

1.ナビゲーションの導入を考えたきっかけを教えてください。

人工膝関節置換術において大切なことは、正確に骨を切ることであり、そのことが、人工関節を長持ちさせ、患者さんが痛みなく生活を続ける上でとても重要になります。
正確に骨を切るということについて、大きな間違いがないようにするため、そして、うまくいかなかったという症例がないようにするうえで、ナビゲーションはとても有効です。人工関節を設置してしまえばもうやり直しができないので、それをなくすためにナビゲーションを導入し、現在ではほぼ全例にナビゲーションを使用しています。
人工関節は今までは経験と勘に基づいて手術がなされてきました。

wadai007-2我々もこれまでは大工のように徒弟制度に培われた経験と勘により手術を遂行していました。なにも我々はこのような経験と勘を否定しようとしているわけではありません。ですが人工関節の手術において時には経験と勘だけでは手術がうまくいかないことも少なからずあります。
例えば、ロケットで地球から火星まで行くのにコンピューターによるナビゲーションなしに無事に到着することが出来るでしょうか。どれだけ技術があっても、ナビゲートしてもらわないで手術するのは不安なものです。自分の腕はもちろん頼りにしますが、+ナビゲーションが必要だと思います。
ナビゲーションシステムとは、人工膝関節置換術において手術を限りなく正確に行うための道具です。それだけ正確に誘導してくれるものがあるのなら、技術だけではなくそのような道具は、最大限使うべきだと思います。

2.人工関節手術を行う上でのポイント

1)正確な骨切り:計画通り正確に骨を切り人工関節を設置することは、人工関節がゆるまないようにすることや、身体のバランスを保つといった人工関節の安定性や、長期間摩耗(すり減り)しにくくするために、とても重要です。

2)正確な靭帯バランス:膝関節の内側と外側にある靭帯のバランスが悪いと、必ず人工関節の一部に負荷がかかり、片側だけが減ってしまうことがあります。術後に安定した膝にするためには内外側のじん帯などのバランスを正確に調整することが重要です。

3)細菌感染
このなかの1),2)をナビゲーションで補うことができます。3)については、病院内の感染対策などが影響します。

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3.ナビゲーションを利用することでの利点と問題となる点は?

利点は、今までは軟部組織のバランスをとるのに、今までの経験と感覚で大丈夫だろうということで手術を行っていましたが、数字に出るので、きちんとできているという確信を持つことができます。また、次の手術に生かすことのできるデータを、目に見える数値で積み重ねていくことができるので、ナビゲーションを使用することはとても大切だと思います。

逆に問題となる点は、2ヶ所に傷ができることと、15分ほど余分に時間がかかることの2点だと思います。せっかく最小侵襲手術を行っても手術する部分と、ナビゲーションの器械(ナビゲーションに位置を知らせる赤外線を出す器械)を設置する場所の2ヶ所に傷を作らなくてはいけません。傷に関しては、2ヶ所になるよりも1ヶ所がいいと希望される方は、続けて大きく傷を開きます。そして、手術時間に関しては、感染と手術時間には関係があるといわれていますが、延長した時間でデータをとることができ、取得したデータで一つ一つの治療をチェックしながら進めることができるので、時間が延びたからといって感染のリスクが増えるとは、一概には言えないと思います。

4.ナビゲーションを使用する前と後で大きく違うことはありますか?

導入前は手術をしたあと、Ⅹ線の結果を見るまでは安心できませんでした。たとえば、具体的な設置角度を、外側から目で見て確認することしかできないため、X 線を見るまで安心できないということもありました。しかし、ナビゲーションを使用すると、ナビゲーションでひとつひとつ確認しながら手術を行えるため、Ⅹ線を最終的な確認のために使うことができるので、Ⅹ線をとるまで安心できないということがなくなりました。
この安心感が大きな違いではないでしょうか。

wadai007-4ナビゲーションの使用の有無における違いは、骨を切る角度が常に一定にはならないということだと思います。手術後、早い段階であれば、少々傾いていても感じないですが、長期で見ればその2,3度の違いで大きく差が出てくると思います。
ナビゲーションは、最近の技術なので、長期成績はわかりませんが、正確な位置に設置すること、靭帯のバランスが無理なくとれること、膝蓋骨(しつがいこつ)がいい位置に入ることの3点をきちんと行えば長期成績はよいと言われています。ナビゲーションを使用することでこの長期成績によいといわれているやり方を実践することができます。

5.最後に

今回、広島クリニック院長である天野先生に「ナビゲーションと人工膝関節置換術について」と、「先進的な手術室について」のお話を伺いました。どちらに関しても、リスクを最小限にし、手術を最大限に正確に行うためならば、技術だけでなく、道具をうまく使うべきだという患者さんを第一に考えたうえで、積極的に新しい技術の導入していく天野先生の真摯な態度を垣間見ることができました。

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ナビゲーションを使用した手術風景

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天野幹三 先生

 

 

 

 

 

 

 

 

協力:広島クリニック

この情報サイトの内容は、整形外科専門医の監修を受けておりますが、患者さんの状態は個人により異なります。
詳しくは、医療機関で受診して、主治医にご相談下さい。