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第4回 『もっと知りたい関節の話:変形性膝関節症』

前回に引き続き、病気のお話です。膝の病気の中でも最も多い、変形性膝関節症について、
国立病院機構相模原病院 手術部長 森 俊仁先生にお話を伺いました。

  1. 変形性膝関節症になりやすい人
  2. 変形性膝関節症の進行度に合わせた手術治療
  3. 変形性膝関節症の疑問

1.変形性膝関節症になりやすい人

変形性膝関節症の頻度

変形性膝関節症は男性に比べて女性のほうが多くかかる傾向にあります。また、肥満している人に多く見られるのが特徴です。女性は、閉経後にホルモンバランスが崩れて、肥満になりやすいことが女性の変形性膝関節症の発生につながっています。

変形性膝関節症の原因

膝が痛いからと整形外科を訪れる方には、中高年の方が圧倒的に多いのですが、中高年の方がかかる膝の病気で、最も多いのが変形性膝関節症です。その原因はいろいろありますが、ほとんどが老化によるものです。膝は体を支え、膝の屈伸によっていろいろな動作を可能にします。膝を使い続けるうちに関節の表面の軟骨がすり減り、関節が変形して痛みが引き起こされるというものです。

2.変形性膝関節症の進行度に合わせた手術治療

初期

椅子から立ち上がるときや、歩き始めるときなどの動作の始まりに痛みを感じます。膝の病気にはいろいろな種類があるので、自己診断は禁物です。膝の痛みが出た場合は、まず整形外科で診察を受けることが大切です。軟骨は、一旦壊れたら元に戻すことができないので、軟骨が磨り減ってしまわないうちに、早めに治療することが大切です。また、膝への負担を減らす生活を心がけることで、病気の進行を防ぐことができます。体重を減らし、膝にかかる負担を少なくするだけでも、症状は軽くなります。

中期

ひどくなってくると、膝が腫れたり、膝に水が貯まっていたりします。膝に貯まった水を注射器で抜き、消炎鎮痛剤を飲むことで、痛みを取り除くことができます。また、ヒアルロン酸関節内注射(関節の中に直接薬を注射すること)で、軟骨の破壊を防ぎ、炎症や痛みをおさえる効果もあります。このほか、装具そうぐ療法や運動療法も行われます。O脚変形には、足底板そくていばんを敷くことで膝にかかる重さが外側へ移動されますから、痛みを抑えることができます。多くの方は太ももの筋肉、大腿四頭筋だいたいしとうきんがやせて、力が衰えてきます。そのため歩行、階段の上り下りの際に不安感が起こり、痛むようになります。このやせた大腿四頭筋を鍛え、元通りに戻さなくてはいけません。
大腿四頭筋の訓練はこちら
どうしても水がたまって腫れがひかないときや、症状が長引くときは、関節鏡を使って膝関節内の状態を確認し、痛んだ組織があれば、それを切除することもあります。
詳しい治療法については、こちら

進行期

内側の関節面のみがすり減りO脚変形の矯正には、高位脛骨骨切り術が可能ですが、変形の進行がひどく、痛みも強い場合は人工関節置換術になります。また、高齢者や骨粗しょう症の方は骨がつきずらいこともあり、治るまで時間がかかります。骨切り術は望ましくありません。65歳以上の方は、人工関節置換術が適応となることが多いです。

3.変形性膝関節症の疑問

日頃から疑問に思っているけれど、なかなか聞けない質問を森先生にお答えいただきました。

Q.膝が痛くなったら、まずは整体、整骨院や病院どこに行けばよいのでしょうか?

A.膝の病気には、いろんな種類がありますので、自己診断は禁物です。「病院にいくほどの痛みではないから、まずは、整体や整骨院に…」というような気持ちもあるかとは思いますが、痛みが長引くようでしたら、近所のクリニックなどで一度見てもらうことが大切です。軟骨は、一旦壊れたら元に戻すことができないので、軟骨がすり減ってしまわないうちに、早めに治療しましょう。整形外科医は、骨や関節の病気の専門家です。まずは専門家の意見を聞き、ご自分の身体の状態を正確に把握することが膝の関節をそれ以上悪化させないためにも大切なことです。

Q.筋力トレーニングはしたほうがいいですか?その度合いは?

A.痛みや腫れがあるときは、関節の炎症が強くなっていることがありますので、筋トレはせずに、安静を保ちましょう。
痛みや腫れがない場合は、筋力を維持して、今ある軟骨をこれ以上悪くしないために、定期的に筋トレを行いましょう。回数の目安としては、翌日筋肉痛にならない程度に行ってください。特に、体重の重い人などは、膝への負担も大きくなるので、それぞれの体力に合わせて行いましょう。自信のないときは、主治医に相談しましょう。
また、筋力トレーニングをしなければと構えなくても、日常生活が十分に筋力トレーニングになります。たとえば、お風呂につかって、膝の曲げ伸ばしや、椅子に座った状態で、家事の合間に足の曲げ伸ばしをするのもよいでしょう。階段を上るのもトレーニングになりますが、下りは逆に膝への負担が大きくなるので、下りはなるべくエレベーターや、エスカレーターを使うと良いでしょう。また、プールでのトレーニングも負担が少なくてお勧めです。
そして、一日に一度はご自分の膝の動く範囲で、完全に伸ばしたり、曲げたりすることで、膝が固まらず、膝の動く範囲を確保することができます。

Q.サプリメントには実際効果がありますか?(グルコサミン、サメの軟骨など)

A.グルコサミンやコンドロイチンが軟骨の成分のひとつであることは、間違いありませんが、サプリメントとして摂取したときにどれだけ吸収され、それが膝の軟骨に置き換わるのかははっきり立証されておりません。迷っているときは、主治医にご相談されるのがよいでしょう。

Q.膝にたまる水を抜いたらくせになりますか?

A.膝に水が溜まる(関節水腫)原因としては、①炎症がある②半月板はんげつばんや関節軟骨の損傷が考えられます。抜いた水の濁りが強いほど炎症が強いと言えます。
一度水を抜くと癖になるのではないかという方がいらっしゃいますが、抜いてもまた膝に水が貯まるということは、膝の炎症が続いているということです。水を貯めたままにしておくと、①溜まった水が関節軟骨を破壊する②貯まった水で関節がゆるくなる、といった悪影響があります。膝関節は関節包という袋の包まれています。これを、風船だと思ってください。風船は一度膨らませると、空気を抜いた後も、ゴムが伸びてしまいます。膝の関節包にも同じことが言えます。膨らんでしまった関節包はなかなか元には戻らないので、関節包を膨らませないようにすることが大切です。
関節の水を抜き適切な治療をすることで、膝の炎症が治まり、水は貯まらなくなります。治療としては、水を抜き、ヒアルロン酸の関節注射を行います。関節包が膨らまないように、サポーターなどで圧迫します。そして、そして、消炎鎮痛剤を服用することを勧めします。

協力:
相模原病院

この情報サイトの内容は、整形外科専門医の監修を受けておりますが、患者さんの状態は個人により異なります。
詳しくは、医療機関で受診して、主治医にご相談下さい。