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第21回 『股関節治療の発展を支える縁の下の力持ち~日本股関節研究振興財団~』

普段、患者さんが目にする医師は、診察して薬を処方したり、処置や手術をおこなったりと、医療現場で診療にあたっている姿がほとんどですが、同時に、治療の発展のために医学研究を行って発表し、また常に新しい情報を収集してより質の良い医療提供に努めています。今回は、そのような医師を支援し、さらには市民への啓もう活動を行いながら運動器の健康と福祉の増進を支えている公益財団法人 日本股関節研究振興財団についてご紹介します。

  1. 日本股関節研究振興財団
  2. 医療の発展に欠かせない医学研究
  3. 日本股関節研究振興財団の活動内容
  4. 股関節治療の発展を目指して

1. 日本股関節研究振興財団

この財団の名前を初めて聞く方も多いと思います。文字通り、日本の股関節研究を振興する財団ですが、その活動内容は多岐にわたります。
昭和49年に日本股関節研究会として発足し、昭和62年には公益法人として認可されて財団法人日本股関節研究振興財団となり、本格的な活動を開始します。その後、法人制度の変更にともない平成23年12月に公益財団法人となっています。

2. 医療の発展に欠かせない医学研究

病院の外来で「△月×日 ○○先生は学会のため休診です」という張り紙を目にすることがあります。学会というのは、学術研究を目的とした団体やその会合(学術集会)のことで、外来の張り紙にある「学会」とは学術集会をさしています。そこで医師は自身の研究を発表したり、他の研究を聞いて情報を収集したり、意見交換や討論を行います。
「研究」と聞くと、ノーベル賞を受賞した「iPS細胞」などのイメージが浮かぶと思いますが、そのような実験室での研究だけでなく、医療の現場で得られた情報を集めて分析したり検証したりすることも重要な研究です。手術後の感染を予防するための抗生物質の投与方法や、MIS(低侵襲手術)による手術法などもすべて、研究によって確立し発展してきたものなのです。

3. 日本股関節研究振興財団の活動内容

股関節研究の支援:研究助成金の支給と研究成果の報告書作成

医学研究の目的は、病気の原因や病態を解明したり、また、より優れた診断法や治療法、あるいは予防法を確立したりすることにあります。現場で働く医師もそれら医学研究の成果を活用しながら診療にあたり、さらに、自らも研究を行って発表しています。日常の診療をおこないながら研究に取り組むことは簡単なことではありませんが、より良い医療を目指して多くの医師が頑張っています。
股関節についていえば、その病気は20種類以上もあります。そして、その中にはいまだ治療が難しいものも数多くあります。
そこで、財団では、「股関節に関する研究」、「診断と治療技術の開発」、「健康寿命を延伸するための研究」を奨励するために、それらに関連した優秀な研究に対して助成金の支給を行っています。

解説:「健康寿命」 WHO(世界保健機構)が2000年に公表した言葉で、介護を必要とせず心身ともに自立し、健康的な生活を送ることができる期間をいいます。

当初の資金は、現在の名誉理事長である伊丹康人先生(東京慈恵会医科大学整形外科学講座第3代教授)の私財と企業からの寄付で賄われ、昭和62年度から平成24年度までに、116件の研究に対して総額1億3千万円を超える助成金の支給を行っています。
また、研究の成果報告書を作成して、厚生労働省、国会図書館、各大学医学部および関係機関に配布しています。この報告書を通して、股関節疾患の治療方法などが股関節の研究者や医療従事者に拡がり、股関節研究と治療の発展へとつながるのです。

股関節疾患と治療に関する情報提供:普及啓発活動と市民フォーラム

すべての病気に共通することですが、治療効果を最大限に引き出すためには、患者さんの「病気や治療に対する理解と協力」が必要不可欠です。そこで、広く社会一般に対して、股関節への関心を高め、また股関節の理解を深めるために、書籍などを通じて情報や知識の普及に努めています。
股関節についての正しい知識を広めることは、股関節症の予防にもつながり、また、症状の進行を遅らせる効果が期待できます。
これらの書籍は、よくある家庭向けの医学書とは異なり、イラストがとても多く、文字も大きくてとても読みやすく、わかりやすいのが特徴です。いずれも股関節治療のスペシャリスト数名が執筆に関わっているので、偏りのない内容となっています。
昨年8月に発行された『人工股関節がよくわかる本-いつまでも元気に歩くために』では、手術はもちこんのこと、人工関節の素材や術後の日常生活、術後の自立を目指した体操の方法や、実際に手術を受けたかたのエピソードなど、現在までに明らかにされている人工股関節の情報がすべて盛り込まれています。

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このほかにも書籍やDVD等を扱っています。詳しくはホームページをご覧ください。注文もできます。
http://www.kokansetu.or.jp/books.html

なお、『人工股関節がよくわかる本』(定価1,600円+税)は書店でも取扱っています。

また、一般市民を対象とした「股関節市民フォーラム」を開催し、股関節の病態や疾患の予防、治療についての正しい知識の普及に努めています。内容は、医師による講義とすぐに役立つ体操指導を中心に構成されています。また、会場での質問とその回答についてもホームページで公開しており、いつでも情報を得ることができます。
http://www.kokansetu.or.jp/forum.html

運動器の健康寿命を延ばすための活動:ロコモン体操の普及と促進

最近よく耳にする「ロコモティブシンドローム(運動器症候群)」通称「ロコモ」は、骨や関節など体を支えたり動かしたりする運動器の機能が低下して、介護が必要になったり寝たきりになったりする危険性が高い状態をいいます。つまり、ロコモは健康寿命を脅かす存在で、その予防が重要視されています。
そこで、長年にわたって医学体操を研究・実践しているメディカルフィットネス研究所と共同して運動器健康寿命延伸体操「ロコモン体操」を開発しました。これは、骨・筋肉・腱・神経などの運動器に着目したロコモーショントレーニング(ロコトレ)の一つで、DVD化もしました。
2010年からは定期的に講習会を実施して、まずは指導者の養成に力を入れ、昨年は宮城県と新潟県で一般向けの教室を開催しました。今後さらに、一般市民への普及活動に力を入れていく予定です。

4. 股関節治療の発展を目指して

このほかにも、助成金を受けた研究の発表を中心としたセミナーを開催して、股関節の専門家や医療関係者が議論を行う場を提供することで、股関節疾患の予防や治療法が進歩し、研究者や技術者の治療技術の向上につなげるなど、さまざまな活動をしています。
股関節治療の発展のために頑張る医師がいて、そして、その医師を支えるこのような財団があるのは患者さんにとっても心強いことではないでしょうか。「もっと知りたい」というかたは財団ホームページをご覧ください。

協力:
公益財団法人 日本股関節研究振興財団
ホームページ:http://www.kokansetu.or.jp/

この情報サイトの内容は、整形外科専門医の監修を受けておりますが、患者さんの状態は個人により異なります。
詳しくは、医療機関で受診して、主治医にご相談下さい。